【中野市】金長食堂で「ソースカツ丼」
中野市中心部の盛衰を見守ってきた創業90年の食堂で頂く絶品ソースカツ丼
長野電鉄の中野駅から、東にちょっとした繁華街が広がっている。古い店が多く、日中は歩く人もまばらで閑散としてはいるが僕好みのいい雰囲気だ。
その繁華街の中心部に店を構えるのがこの金長食堂である。堂々とした店構え、立派な看板だが、煤けて色褪せている。店に駐車場はない。近くにコインパーキングを利用する。
暖簾など出ていないので、一見やっているのかいないのか判別しかねるが、よくみると目立たぬように「営業中」の札が掲げられており、照明も付いているのでちゃんと営業しているようだ。
引き戸を開けると店内には誰もいない。横を見ると、ガラス越しの隣の厨房には黙々と働くの男性の姿が。僕に気付いていない。「こんにちは〜」と二度声をかけるとようやく気付いて出てきてくれた。他に店員らしき姿は見当たらず、この店主一人でやっているらしい。
メニューは実にシンプル。ソースカツ丼と卵とじカツ丼のみ。名物ソースカツ丼の並盛(¥850)を注文した。
年配の店主一人でやっているためだろう、店内はいささか雑然としている。しかし店内の作りはそれなりに凝った意匠が見られ、かつてはハレの日のレストランとして、多くの家族連れで賑わったのだろう。
程なくして店主が運んできたソースカツ丼。
主役のソースカツ丼に負けぬ存在感の具沢山の豚汁。丼の向こう側には小鉢に入った追いソース。これは珍しい。
ソースカツ丼の並はヒレカツ3枚。噛み締めてみると細めのパン粉でパリッと強めに揚げられた衣に甘さ控えめのさっぱりしたソースがなじんでいる。これは美味い。
ソースカツ丼というと下に千キャベツが敷かれていることが多いが、ここは潔くキャベツなしだ。食べる前はいささか寂しくも感じたが、カツがキャベツによって冷めるとか水っぽくなるといったことがない。これは別にキャベツのコストをケチっている訳ではなく、店のポリシーなのだろう。
ソースのかけ方にもまた、店のポリシーを感じる。揚げたてのカツをさっとソースに潜らせてご飯に載せており、ご飯にソースはかけられていない。あらかじめご飯にソースをかけると、ベチャッとしてご飯の食感が悪くなってしまう。食べる直前に、小鉢のソースをお好みの量かけて下さいというわけだ。これは気遣いが細かい。
そしてこの具が溢れんばかりの豚汁。キャベツ・大根・人参・ぶなしめじ・豚肉などの具がたっぷり入り、ソースカツ丼だけでは栄養が偏るところをよく考えられている。野菜から出る甘味と、味噌の風味が豊かでこれも実に美味い。この豚汁だけおかわりしたいくらいである。
客は最初から最後まで僕一人であった。会計の際、ご主人に話しかけてみた。
なんとこの店、少し離れた場所で店を始めて創業90年になるのだという。この場所へは昭和8年に移ってきたとのこと。昔はこの界隈も相当賑わったという。今は家族の介護もあり、不定休で細々とやっているらしい。
中野市中心部の繁華街の歴史の移ろいを見続けて来たこの店、店の運営と家族の介護で親父さんの体調が心配ではあるが、ソースカツ丼と豚汁は本当に美味しかった。1日も長く続けてほしいと願いつつ、店を後にした。