【長野市】千福で「刀削麺」
長野市権藤。長野市最大の繁華街を貫くアーケードだ。このアーケードの特徴は、スナックやバーなど夜に営業する店が多いことで、昼間は閑散としているのだが、かつては日中でも今では考えられないくらいの人の姿があったのだという。
そんな権堂アーケードの中で昼間から営業している数少ない飲食店の一つが、この「千福」である。つい最近まで、少し離れた西鶴賀で営業していたのだが、権藤に移転してきたようだ。店先には植田まさし風のなんとも味のあるイラストが掲げられている。
土曜日の11時半過ぎ、入店するとすでに一人客2名の姿。カウンターに若い女性、壁際の二人掛けのテーブルに若い男性である。若い男性の向かいのテーブルに座る。
メニューは麺類と餃子とすいとんと、全て小麦粉を原料とするものである。ご飯ものは無い。ここの名物が、小麦粉の塊を包丁で削り出して作る「刀削麺」である。ラーメン系は普通の麺と、+¥150で刀削麺が選べるようだ。
人の良さそうなご主人に「千福手打ラーメン」を刀削麺で注文。
程なくして、僕の向かいのテーブルのお兄さんにラーメンが到着した。お兄さんは餃子も頼んだらしく、ご主人は「餃子は少し待って下さい」と言って厨房に戻る。
しかしお兄さんの餃子がいつまで経っても出てこない。他人事ながら心配になって厨房で何やら作業しているご主人を見てみると、なんと皮から手作りでやっているのである。お兄さんは早くもラーメンを食べ終え、少々戸惑った様子である。
結局、お兄さんの餃子が届いたのはラーメンに遅れること約20分。まるで自分のことのようにホッとした。
ホッとしたのも束の間、「餃子先にどうぞ」の声と共に、僕のテーブルにも餃子が置かれたのだ。
「いやいや頼んでませんよ」と言おうとしたのだが、なんだか親父さんが一所懸命作った餃子を返すのが忍びない。心なしか餃子も「食べて食べて」と僕に話しかけているような気がする。
今度は向かいのお兄さんが、「あちゃーこのおじさん餃子頼んでないのに来ちゃったよ、どうするんだろう」とこちらを気にしている気配が伝わってくる。形勢逆転である。
結局、餃子を頂くことにした。
皮から手作りだけあって、モチッとした強い弾力の食感。中の具材もそれぞれの食感が感じられる。脂っ気もニンニクも控えめで飽きがこず、いくつでも食べられそうだ。これは美味い。頼んでよかった(頼んでないか)。
餃子を2ヶ食べ終えたタイミングで、刀削麺が到着。
小麦の味がしっかり感じられ、薄い部分はビロビロ、厚い部分はすいとんのようなしっかりした歯応え。どこかで体験した歯応えだと記憶を辿ったら、そうだ篠ノ井の「福苑」の板麺だ。あれに似ている。
豚ガラベースのスープに、白菜を始めとする野菜と豚肉が染み出した、胃に染み入るような優しい旨味のスープ。これは美味い。
餃子をめでたく食べ終えたお兄さんは帰って行った。店内には僕一人となったので、おじさんに話しかけてみた。
おじさんは台湾出身で長野に来て60年。権堂で店を始めて、西鶴賀に一旦移って、今年また権堂に戻ってきたのだという(後で知ったのだが信濃町で店をやっていた時期もあるらしい)。
無添加がおじさんのこだわりで、スープ作りに使う豚のゲンコツや、小麦粉や、餃子の餡まで嬉々とした表情で見せてくれた。
大ぶりの餃子5ヶと具沢山の刀削麺でお腹はいっぱいになったが、濃い味のラーメンを食べた時のように無性に喉が渇いたり、体がなんとなくだるくなることもなかった。これは体に良さそうだ。
ご馳走様でした。次回も餃子は必ず頼もうと思いつつ、店を後にした。