レストランルックで「ルック定食」
長野市の北隣、飯綱町の国道18号。峠に差し掛かり、登坂車線が設けられ、大型トラックは苦しそうに登る難所に、その店は突如として現れる。
かなりレトロながら、とんがり屋根のその建物は存在感がある。そして、その店の前を通りかかるたびにランチタイムをかなり過ぎても沢山の車が停まっているのを何度も見て、一度訪問してみたいと思っていたのである。
8月の最後の土曜日の11時過ぎ、念願叶って初訪問である。混雑を避けて早めにお邪魔したが、既に半分近く席が埋まっている。驚いたのは、客のほとんどが60代以上と思われる人生の先輩方であるという点だ。
場違いな若輩者(とは言ってももう40代半ばだが)の僕は入り口近くの二人がけのテーブルに案内される。
下調べの段階では、お得なサービスランチは土曜日もやっているということだったのでそれを目当てに来たのだが、残念なことに今は月曜日から金曜日までだという。仕方がないので店の名前が冠された「ルック定食(¥930)」をオーダー。要するにとんかつ定食のことらしい。メニューは下げられてしまったので撮影は断念。
それにしても素晴らしいインテリアだ。
創業は1973年とのことで、いかにも70年代風のエンジのカーペットはどこにも擦り切れたところとか薄汚れたところがない。きちんとメンテナンスされ、定期的に張り替えられているのであろう。張り替えの際に現代的なフローリングにしたりせず、あくまで創業当時からのエンジのカーペットにこだわるあたり、敬意を表したい。
白い合皮のコロンとした椅子も然り。
ホールで動き回るベテランと思われる女性たちも、オールドスタイルながら所帯じみたところなどなく洗練されている。
程なくして、ルック定食が到着。
オーソドックスながら食欲をそそる美しい盛り付け。なぜか湯飲みになみなみと注がれたお茶がセットされている。
ロース肉は適度な厚さで、衣は今時のトンカツ屋のように荒目のパン粉がトゲトゲしたやつではなく、細かめのパン粉が薄めにつけられてパリッと揚げられたタイプ。最近はこちらの薄い衣の方が胸焼けしづらく好きになってきた。
噛み締めると、ロース肉は決して固いなんてことはないが、かと言って人工的な不自然な柔らかさもなく、脂身も適度に入っていて、言ってみればごく普通のトンカツなのだが普通のレベルが高い。安定感のある味だ。
付け合わせのサラダにかけられた手作りの玉ねぎ風味のドレッシングも、大きな麩の入った味噌汁も、漬物も、もうすぐ新米の時期ながらご飯も美味い。
いや美味しかった。食後のお茶を啜りながら、一緒に運ばれてきた七味は一体何に使うためのものだったのか考えたけれど、結局よくわからなかった。
恐らく創業当時からずっとこの店のファン、という人も多いのではないか。開店した当時はきっと若者にとってとびきりおしゃれな、「ハレの日のレストラン」だったに違いない。
月日が経って陳腐化してくれば現代風にアップデートする、というのも一つの手だろうが、あえて四十数年前の創業当時のキラキラした雰囲気を守り続けて(多分こちらの方が大変だと思う)、当時の若者が初老になっても訪れるレストラン。
素敵ではないか。
この昭和モダンの雰囲気をいつまでも守ってほしいと思いながら、店を後にした。