更科で「チャーシューメン」
須坂市臥竜公園の近く、見晴らしの良い丘陵地の果樹園に囲まれたところにあるのが「望岳台」という少し古めのニュータウン。
恐らく団塊の世代が住宅購入を考える頃に開発されたニュータウンで、建っている家々も年季が入っている。道路の幅も現代の感覚で見ると狭い。
そんなニュータウンの一角に立つのがこの食堂、「更科」である。
すっかり周りの住宅の風景に溶け込み、店のすぐ目の前まで行ったのだが気付かずに通り過ぎてしまったほどであった。
土曜日のお昼ちょっと前、恐らく一番乗りの客だろうと思って入店すると、既に男女二人の客が間もなく食事を終えようというタイミングであった。
店内は年季が入っているが、隅々まで掃除が行き届いている。ちょっと高いところのガラスもピカピカに磨かれている。どうしてもこういうところに目がいってしまう。口うるさい姑みたいだなと我ながら思う。
この壁掛けのメニューのフォントが実にいい。価格も実に手頃だ。奥さんに「チャーシューメン」を注文。
先客は僕よりちょっと年上の夫婦で、店の奥さんと「夜の営業は8時で終わり?」「7時で終わりです」「ずいぶん早いね、時短要請より早いんだね」「だってこの辺りのお客さんは7時には夕食終えちゃいますよ」などという会話を交わしている。
注文して1分もたたないうちに店の主人がお盆に丼を載せて出てきたので「ずいぶん早いな」と驚いていると、主人は外に止めてあったスーパーカブの出前機に丼を収納し出かけていった。近所であれば出前もやっているようだ。
5分ほどで奥さんが僕のチャーシューメンを運んできてくれた。
好ましいビジュアルである。バラ肉のチャーシューが大小合わせて6枚。他にワカメ、ネギ、ナルトが載せられている。メンマがないのがちと寂しいけれど。
手打ちと思われる麺は細め。啜ってみると食感は柔らかめながら、コシはちゃんとある。日本蕎麦を彷彿とさせる食感と歯応えである。
鶏ガラのスープはキリッとした醤油味、しょっぱめの味付けのバラチャーシューがまたいい。肉の部分はホロリと柔らかく、脂身はジンワリと甘い。
なるほど、いかにも蕎麦屋の出す中華そばである。随所に蕎麦に通じる繊細さを感じる。しみじみと美味い一杯であった。
僕が食事している間だけでも2回ほど出前の電話が鳴った。出前の需要が結構あるようだ。自分の住むニュータウンに出前をしてくれるこんな店があったら実に嬉しいではないか。わざわざ出かける必要もないので、老後も安心である。とはいっても店のご主人も同じだけ歳をとるわけで、いつまでも出来るわけではないだろうが、この街のオアシスとして、長いこと元気で続けて欲しい。